みんな幸せ
U:
隣の雪子お嬢様は箱入り娘
よく晴れた日の午後日傘をさして
真っ白な飼い犬と一緒に遊んでる
ああかわいいな かわいいな
あたくしがどんなに背伸びしたって
あんなふうには はしゃげやしない
ひっくり返っても素敵ね
とってもとっても素敵ね
それなのに雪子お嬢様ったら
ひと月ちょっと前に信州に
家族旅行に行って以来
ずうっと家の中に篭もりきり
ずうっと部屋の中に篭もりきり
どうしたのかしら どうしたのかしら
あたくし 力になりたいわ
S1:
それはねそれはね、子豚ちゃん
かわいいかわいいお嬢様みたいに
真っ白い肌の子豚ちゃん
旅館に着いたその日から
抜け出しては会いに 抜け出しては会いに
お嬢様
とうとうご主人様に見つかって
お父様お父様
わたくしこの子豚ちゃんが欲しいわ
S2:
ご主人様がニッコリ笑って仰いますことには
それじゃあ雪子
お父様が相談してくるからね
お部屋に戻って待っていなさい って
お嬢様は素直に はあい と言ったのよ
S1 S2:
最後の夜になりました
S1:
雪子お嬢様は少し不安げに
子豚ちゃんはゆずっていただけたの
と尋ねました
ご主人様は得意気に
もちろんだよって
S2:
案内されるままに
はずむ足取りでお嬢様
扉を開きます
扉を開きます
そこには美しく飾りがつけられた子豚ちゃん
S1:
やわらかいやわらかい
とってもやわらかいだろ雪子 って
満足そうにご主人様
雪子お嬢様ははらはらと
手の甲に雫をこぼしながら
そうね、やわらかいわね って言いました
とってもやわらかいわね って言いました
ねえお母様わたくしね 子豚ちゃんとね
遊びたかっただけなのよってあとで
消え入りそうな声でお嬢様
奥様はお嬢様の手をとって言いました
子豚ちゃんは
大好きな雪子ちゃんに食べてもらえて幸せよ
残らず食べてもらえて幸せよ
U:
お嬢様 そうなの きっとショックね
あれきり全然お庭に出てこない
あの犬もずうっと家の中なのかしら
大きな犬なのに これじゃあ太っちゃう
白豚みたいに 太っちゃう