noonecanfindme


今日も誰も私を殺しにきてくれない。

その国の泥でできた猿たちは、私の横を素通りして、私の連れ合いを全てどうにかしてしまった。それ程大切な連れ合いというわけでもなかったので、私はそのまま彼らを見殺しにして、傾斜の急なスロープを一気に駆け上がった。

そのまま進んでしばらくすると、別の生き物が暮らしている台が見えてきた。私は、あの泥でできた猿たちよりも遥かに危険といわれているその生き物の対処のほうを得意としていたので、特に躊躇することなく突き進んだ。
危険な生き物たちは高価だった。私は彼らの毛皮をはいで売り買いをする人々の支持者だった。私は私の体よりひとまわりもふたまわりも大きな毛皮を好んでよく頭から被った。これを被ると普通は視野が狭まって転倒しやすくなるらしい。そのため私はいつも大きめの毛皮を選んで買うのだ。私は小柄な体をしているので、そのくらいの大きさの毛皮を手に入れるのに苦労しなかった。
本来ならば目玉を覗かせるべき場所から、私は頭を出し、もう片方の目玉の穴は丁寧に縫い合わせてしまった。鼻の穴をこじ開けて腕を通したので、腕を前からしか出すことができず、前傾姿勢になりがちで少し格好がつかなかった。わき腹が寒くてすぐに腹を壊しがちだった。ぶかぶかな足をずるずると引きずって歩くからか、私の歩いた足跡は均したようになって、私の足跡は残らなかった。

あの色は気に入らない。悪い色をしている。
猿たちの品定めする声が聞こえる。眠っている間にあそこまで戻ってきてしまったのだろうか。この霧の中では、考え事をしたり眠ったり、少しでも意識が途切れることがあれば最初のところまで戻ってきてしまうのだ。だけど私はそれをあまり気に留めることはなかった。
「病気かもしれない。食ったら体に悪い」
「あの首はいい。でも」
「幽霊のようだよ。足がないじゃあないか気味が悪いよ」
ひそひそ。
猿たちがまた私の横を通り過ぎる。今度こそは襲われるのではないか、という恐れはまったくなかった。何回やっても結局は同じことになるのだ。続きが少し長いか、多いか足りないかするくらいで筋書き自体が変わることはなかった。きっと私は誰かの物語をなぞっているだけなのだ。既に死んだ誰か。素晴らしい。あるいは死んでいるのは私で、誰かが私を回想している。
すまないが最近、記憶力が酷く低下していてね。
いやいや。誰かだなんて今更。
私はいつもいつも知っている。お別れの練習。
お前のことなんて嫌いだよ。

私はその都度、仲間の死を悲しんで、仲間の負傷を嘆いた。さらに私の至らぬ様々な点について私は私を責めてみせてやらなくてはならなかった。ここで、面倒だ、などと思ってはいけないのである。そんなことをすればまた振り出しに戻されてしまうに違いないだろうし、今までのことが、またなかったことになってしまう。良いよ良いよ。良いから無心になって突き進むのです。
お前を助けてやれないことは私は最初から知っていた。おや知っていてお前に近づいたのは、近づいたのはなぜだね。
どこだい。

毛皮をとるのをやめろっていうのか。
寒い。
これは私の毛皮だよ。私が昔、獣だった頃に纏っていたものだよ。

ああ。またお前が死んでしまった。
もうそんなこと、いいから急いでよ。急いでよ。

私はお前の傷がはじめから私の手に負えるような代物ではないことを知っていた。私にはお前を本当に、本当になかったことにするのはつらい。お前は、私の傷もお前の手には到底負えない代物であることを知っているようであったから、だからお前は私をこれ以上追い詰めたりすることはないであろうから、私はこうしてお前になにかと構ってしまう。
やめよう。

時計を見ていなかった。時計を見る時間が惜しかった。
足がすぐにもつれて、走るのが苦手だった。
大抵、こういうのは夢。
どうでも良い。
わかりきっている未来のほうが私を呼ぶから。
私はまるで何も知らないふうにうまくやった。 そして何も知らないものを怖れた。
だってお前たちがそう仕向けたのだろ。お前たちだってそう仕向けたのじゃないか。
このくに。
そこまで着いたらまた毛皮を取り替えよう。取り替えよう。とびきり美しいやつに取り替えよう。
いやだな似合わないよ。
私がいるほうが間違いなのか、彼らがいるほうが間違いなのか。私は、私のほうこそが間違っているのだと言いながら、私だけが正しいという幻想に未だに縋っている。
リアル。
幻想なんかじゃないさ。
私だけが助かる未来に私は一人で生きている。私は私の未来に一人きりで生きているのだ。


















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